ポップの狂熱、天使たちのシーン South Penguin 『Y』に寄せて
東京インディ・シーンの最注目アーティストSouth Penguinの1st ALBUM『Y』がリリースされました。
プロデュースは盟友である岡田拓郎。昨年自身がリリースした名盤『The Beach EP』に連なる抜群のセンスを今作でも遺憾なく発揮、そのサウンドはストリーミングでも一聴瞭然なほどのグッド・バランス。ギター、ヴォーカル、ベース、そして各パーツが細心の注意を払い配置されたドラムスが多様性に満ちた世界観を提示します。
Dos Manos荘子itを客演に迎え「ポケットのなかの握りこぶし」「幼年期の終わり」「貝になりたい」などリリックにポップカルチャーの豊富な知性を忍ばせた『air』でセンス良くスタート。
ボズ・スキャッグスを思わせるサックスと疾走感あるビートが印象的なAOR『head』、スプリング・リヴァーヴと歌声の響き合いが心地よい『alaska』、グルーヴするベースとジャジイなギターの絡みが艶かしい『ame』。
そして秋めいたフレンチ・ポップなニュアンスが素晴らしい先行曲『idol』。
細野晴臣からMac Demarcoを経由したような『alpaca』、Fender JaguarもしくはJazzmasterと思われるシングルコイルのキラキラしたストロークが涼やかな『spk』と良曲が続きますが、ベスト・トラックは8曲目の『aztec』。
これまで記述してきた要素のすべてが集約された、4分18秒の宝石。
フリッパーズ・ギターへの愛に満ちたサウンドとリリックは海辺のピナコラーダのようにふわふわと甘く、夏の天使たちのシーンに溶けてゆきます。
商業システムの「本物らしさ」「なんとなく良さげ」に乗らない、良質な音楽。それをパロディ的なくすぐりでなく、愚直なまでに突き詰めること。
チルに漂い強烈なバックラッシュでフェイド・アウトする最終曲『happy』の余韻を感じながら、また『air』からリピートする。
窓に目をやる、夜が更けてきた。ちょっと出掛けようかな。孤独のひとつになって、踊りに行こうか。
そんなささやかな日々のサウンドトラックが生まれました。
在野にて評論活動修行中。大学では映画と社会運動について研究。
アメリカン・ニューシネマ、セカンド・サマー・オブ・ラヴ、ウィノナ・ライダーの信仰者。
Twitter:tele1962