君島大空 ライヴレポート ある午後の反射光
フワッ、とステージに現れた前髪の長い繊細そうな青年が、黒いFender Jaguarを爪弾く。美しいコードの響き、シングルコイルの透き通ったトーン。やがて心臓の鼓動のようにドラムが鳴り、青年がゆっくりとマイクに近づき、声を発する。
その瞬間、渋谷WWW Xに集った人々は確信したはずです。自分たちがこれから特別な時間に立ち会うことに、新しいある光に出会うことに。
ギタリスト、ベッドルーム・ミュージシャン君島大空さんの「合奏形態ii」と題されたバンド・スタイルでのライヴ。
一気に会場の空気を自分のベッドルームの透明なブルーに染め上げた君島さんはバンドメンバーを招くとギターをブースト、グルーヴに身を投じて音を泳がせます。
「心が宿すにも、心が生むにもふさわしいものを宿している人たちがいる。すべての詩人によって、また職人の中でも天才と呼ばれる者たちによって生み出される」
プラトン『饗宴』
この夜のメンバーはドラムとベースにバンド木(ki)からナイーブさんとテツさん、そしてギターに吉田ヨウヘイgroupの元メンバーで現在は中村佳穂BANDを始めレコーディング、セッションで引っ張りだこの西田修大さん。
キース・ムーンばりに感性豊かで自在なドラミングのナイーブさんとそれに程よい距離感を保ち骨太なルートを2フィンガーとJazz Bassで刻むテツさんのビートの上を、2つのギターが流麗かつ獰猛に動き回り、君島さんの中性的な歌声が奏でるメロディが色を与えます。
その構築性の高みから見えるサウンド・スケープは圧巻。特に『遠視のコントラルト』のグルーヴは絶好調時のGRAPEVINEかそれ以上の快楽悦楽に観客を溺れさせていました。
中盤では通常の弾き語りパフォーマンスも披露。ガットギターを手に的確なタッチで早いフレーズを弾きながら歌う声はどこまでも澄んでいて、リアルタイムでルーパーを駆使していとも簡単に重ねられたコーラスとともに会場に、観客の心に溶け込んでいきます。
その後ステージに出てきた西田修大さん。
「弾き語り、ほんっとうに良かった…」
そう呟いた西田さんに「それは、楽屋で言うことだから…」と返して笑いを誘った後、デュオでそよ風のような『向こう髪』。
美しいアルペジオとギターソロの応酬には快哉を叫ばずにはいられません。
この夜は終始に君島さんのガットギターとそれに最も近いニュアンスが出せるJaguarの柔らかなトーンと、西田さんのJazzmasterの太くサスティンの効いたトーンのハーモニーが抜群で、永遠に触れていたくなる反射光を描いていました。
午後の終わりを思わせるオレンジ色のライトに照らされた終演後、明るくなった場内は驚きのため息が自然発生していきます。
「奇跡だな」
筆者の隣にいたある人気バンドのフロントマンがつぶやいていました。
それに心のなかで頷きながら、膝に手をあて茫然とするばかりの筆者。
あれから3日が経ちましたが、まだあの夜の、引き延ばされた午後の反射光に魅せられています。
在野にて修行中のフリーライター。大学では映画と社会運動について研究。アメリカン・ニューシネマ、マッドチェスター、ウィノナ・ライダーの信仰者。
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