『お前の諭吉が泣いている』がテレビ朝日でドラマとして映像化(2001年)
二億円もの赤字を抱えたかつての名門校、トルナーレ高等学院を、東山紀之さん演じる伝説の男、結城碧志が経理の方面から立て直すという作品。とはいえちょっと検索を掛けてみると、このドラマの終了直後の4月26日に第一次小泉内閣成立という流れで、財政健全化、構造改革、とにかく経済成長をという大号令のもと、民間でもリストラ、非正規雇用の増大など、少々厳しい時代になっていきます。さすがにこのドラマの主人公はひとこそ切りはしませんが、そのひとたちが抱えている無駄に対しては非情の大鉈を振るっていきます。ただその結果最後に残ったものが、そのひとたちにとっても本当に大切な、唯一無二のもので……という落ちは着くわけですが、現実のほうは、実際そんな風になっているのでしょうか? こうした話のパターン、ずっとのちのNHKの経済ドラマ、『ハゲタカ』などでも繰り返し繰り返し使われているのですが……。この脚本家ならではのさり気ない細部への気配りと、それによる控えめな異議申し立てなどは、例えば食堂のおばちゃん、西園寺芽衣子へのホストたちの労わりの言葉などに既に現われてはいるのですが、そちらの方面から大団円、というわけには、やはりいかないのでしょうね。結局、改革なくして成長なし、ということなのでしょうか
『とんび』がTBSでドラマとして映像化(2013年)
内野聖揚さんが、無骨で口が悪いけれど心から妻と息子を愛しているヤスを、圧巻の演技力で演じていて素晴らしかったと思いました。男くさくて上手く言葉で伝えるのが下手なんだけど、妻が亡くなってからもまわりの人たちと一緒に、男手一つで必死に息子を育てる姿が、とてもカッコ良くて素敵ではまり役だと思いました。佐藤健さんが、親だけデパートなく、まわりの人全てからたくさんの愛情をもらって育ったアキラを熱演していて、とても良かったです。常磐貴子さんが、とてもきれいで理想の母親を好演していて、さすがだと思いました。アキラをかばって崩れる木箱の下敷きになって、亡くなってしまうシーンは泣いてしまいました。全体的に派手さはなく、父子家庭の日常が淡々と描かれているのですが、人々との交流一つ一つのやり取りに、あたたかい心がこもっていて見ているこちらも、優しい気持ちに包まれました。野村宏伸さんが、お坊さんをとてもいい味を出して演じていて、素晴らしかったと思いました。心の微妙な動きが丁寧に表現されていて、みんながアキラを大切に思っているのが伝わってきて、何度も泣いてしまいました。毎回泣ける珠玉の名作だと思います。この作品に出会えた事を幸せに思います。
『ごちそうさん』がNHK連続テレビ小説でドラマとして映像化(2013年)
ベスト3にしてようやくメインストリームの作品を取り上げることができたなと、なんだか少し、ホッとしています。とはいえこの作者さんの持ち味は本来、メインストリームに乗れないひとたちへのコダワリだと思うんですよね。例えば本作ではキムラ緑子さん演じる「いけず」な小姑、西門和枝。ヒロインには厳しい小姑なんですが、当の本人は「出戻り」なんですよね。そしてヒロインの夫の、あの「いけず」は彼女自身がかつての婚家でされていたことそのままなんだという、一応の理解はあるものの、だから何? といった認識も、いかにもあるあるな感じなのです。その隔靴掻痒な感じから、女性同士の、解り合えたとはいえないながらも、それなりに繋がりが維持されるという描写があって、キムラ緑子さん、確かあの役でブレイクでしたね。男性たちに関しても、市役所に就職したヒロインの夫と、その建築課の先輩、徳井優さん演じる大村宋介との関係などが、それなりに落ち着いた関係になっていき、最初嫌味っぽかった「赤門」(東大卒という意味が込められているわけで、その先輩の側からすれば当然、コンプレクスのようなものがあるのでしょうね)という呼称などが、やがてそれなりに親しみと尊敬を込めたトーンになっていき、といった感じで、さり気なく温かい描写が、いい感じでした。
『わたしを離さないで』がTBSでドラマとして映像化(2016年)
この作品、原作が話題になっていたとき、SF方面のひとたちからの批判がやたらと多かったんですよね。まずSF的な設定として非常に古い。情緒に訴えるような作りになっていて、本来もっと重いはずのテーマが、単なる泣ける話になってしまっている。iPS細胞、ES細胞など、科学のほうだってもう少し発展している。要するに臓器移植のためだけに育てられているクローンの子供たちがいて、その子供たちはやがて、強制的に臓器を提出させられ、死んでしまうのだけど、クローンの、あるいは機械的なロボットまで含めた人造人間の人権問題みたいなものは、確かにSFとしては既視感いっぱいの話ではあります。とはいえ問題はむしろその当たり前さで、SF方面のひとたちはSFとしては既に議論が尽くされたテーマだと言っているわけだけど、現実の問題としては逆に、これからの問題なんですよね。例えばこの物語の設定では、クローンにはそもそも心がないのだという認識が非クローンたちのあいだで共有されていることになっているのだけれど、多くのSFが描いてきたのは、そこから逆に、私たち人間(≒非クローン)の心のほうは本当にあるの? という私たちの側への揺さぶり、自由意志への疑問みたいなものだったんですよね。でも本当に恐い立場に立たされているのは当然クローンたちのほうなわけで、それを安全圏からのSF談義でもう終わった話にしてしまっているひとたちの存在は、筆者のほうにも、嫌な既視感を覚えさせる光景でありました。なんだか肝心な話が最後になっちゃったけど、ドラマのほうでは遠藤真実という登場人物が、特にいいんだよね。この人物もクローンなんだけど、クローンたちの権利を訴え、学生運動みたいなこと、始めちゃうんだけど、彼女がクローンの学園卒業後暮らしているコテージが、学生運動の解放区みたいな雰囲気で、おまけに拡声器片手に、街頭演説まで始めちゃう。今どきそのスタイル? そう。彼女たちのやり方、確かにもう終わっちゃっているスタイルなんだけど、でもこの点こそが、このドラマ版の企みで、彼女たちの声がこの物語のなかの非クローンたちに届かないのとパラレルな感じで、現実の私たちには、原作、ドラマ版双方を通じてのこの物語からの問いかけが、届いていないってことなんですよね。
綾瀬はるかさんが、臓器提供するためだけに生み出されたクローンの、葛藤と苦悩を見事に演じていて、素晴らしかったと思います。感情を抑えて淡々と薄幸な恭子を、上手く演じていたと思いました。水川あさみさんが、ものすごくワガママな美和を、上手く演じていて、とても良かったと思いました。三浦春馬さんが、繊細で難しい役柄を見事な演技力で熱演していて、素晴らしかったです。麻生祐未さんが、無表情で怖すぎる学長を、さすがの演技力で演じていてすごかったです。あまりにも絶望的で儚過ぎるストーリーだと思いました。恭子が「もうこれ以上トモを傷つけないで下さい。トモは無理に無理を重ねて笑ってきたのだから」というシーンは、胸に突き刺さりました。今、自分がこの世の中に生きていてごく普通の生活をしていることは、決して当たり前ではなく奇跡なのだということに気付かされました。
『だから私は推しました』がNHKでドラマとして映像化(2019年)
桜井ユキさんが、婚約者にフラれて人生のどん底に落ちた時に、地下アイドルのハナと出会い、ハナの頑張る姿に勇気をもらって自分も頑張ろうとする愛を、とてもいい演技で熱演していて、良かったと思いました。地下アイドルを応援するために、自分が稼いだお金をつぎ込んだり、推しのCMの商品を大量に買ったりするのは、ほんとに好きだとここまでするんだと驚きました。人には負けない好きなものがある人には、とても心に響く作品ではないかと思いました。白石聖さんが、石原さとみさんに似ていると思いました。歌もダンスもダメな上に、人見知りというダメダメなアイドルなのですが、心の底にある思いは人一倍強いハナを、熱演していてとても良かったです。売り出さ役の笠原さんの気持ち悪さがリアル過ぎると思いました。ラストで、愛が保険会社を辞めて古参オタ椎葉さんの法律事務所で、働いているというところが良かったです。好きや応援するとは微妙に違う、推すということの清々しさを感じることができる、とても面白くて見ごたえのある作品でした。
その他森下佳子さん脚本作品
- 平成夫婦茶碗(2000年)
- 東京庭付き一戸建て(2002年)
- 世界の中心で、愛をさけぶ(2004年)
- 白夜行(2006年)
- JIN-仁-(2009年)
- 天皇の料理番(2015年)
- おんな城主 直虎(2017年)
- 義母と娘のブルース(2018年)
- 天国と地獄〜サイコな2人〜(2021年)
- プラトニック・セックス(2001年)
- 包帯クラブ(2007年)
- こちら葛飾区亀有公園前派出所 THE MOVIE 〜勝どき橋を封鎖せよ!〜(2011年)
- 花戦さ(2017年)