『アトランタ』と『This Is America』、ドナルド・グローヴァーとチャイルディッシュ・ガンビーノ

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2018年9月。Netflixでチャイルディッシュ・ガンビーノことドナルド・グローヴァーが製作、脚本、主演そして一部監督も務めたドラマ・シリーズ『アトランタ』が配信開始されました。
アメリカ本国では2016年に放送され大反響を巻き起こし、翌年のエミー賞では監督賞と主演男優賞、ゴールデン・グローブでは作品賞を受賞。日本ではHuluにて短期間の限定配信のみだったため、各方面から再配信を望む声が上がっていました。ようやく実現したこのタイミングでの配信開始は、既に放送されているシーズン2の存在はもちろんですが、やはり『This Is America』の大ヒットが大きかったのでしょう。

この春にシェアされた『This Is America』、そのMVは全世界の話題をかっさらいました。それはアジアの極東でも例外ではありません。狂気に満ちた表情のドナルド・グローヴァーが歌い、踊り、人々を撃ち殺す。それは黒いイエス・キリストのようであり、時空間を自在に横断する天使のようです。画面の手前、奥、右左隅々まで様々な直喩と隠喩が散りばめられ、Geniusを始めとする多くの音楽メディアやSNS上で解説合戦、解釈合戦が繰り広げられました。

今、『アトランタ』を通ってから『This is America』のMVを観返してみると、両者の深い関係性、『アトランタ』があったからこその『This Is America』なんだな、ということが見えてきます。特に9話目「奴隷解放記念日」との類似性が非常に強いことがわかるでしょう。ポリティカリー・コレクトネスの暴走、ブルジョワの欺瞞、黒人のイメージの強烈な搾取をアイロニー山盛りに笑いのめすこのエピソード。ヒロ・ムライによる、ひとつの空間を最大限に活かし箱庭的世界を構築するカメラワークはそのまま『This Is America』へ受け継がれました。無表情であの異常な状況を何とかやり過ごそうとしていたドナルド・グローヴァーの内面を表現したのがMVのチャイルディッシュ・ガンビーノだ、とも言えます。

『アトランタ』シーズン1は全10話。ひとつのエピソードが20分ちょっと。非常にタイトにまとめられています。ロケを多用した映像のリアルな息吹、文脈を外さない音楽。ドナルド・グローヴァーによるアイロニーたっぷりなユーモアで笑わせて笑わせて、最後にほんの少しだけ、不器用な誠実さと人情でホロリと泣かせてくれる。それは監督ヒロ・ムライの故郷の伝統芸能である落語のようであり、マイク・ニコルズ『卒業』や『ファイブ・イージー・ピーセス』などの60年代アメリカン・ニュー・シネマのようでもあり、私たちの人生そのものです。

聴きこむ編集部ライター 吉田昂平
加藤幹郎「映画とは何か」を読み批評活動に魅了される。映画、音楽、サッカーを軸に在野で活動。カウンター・カルチャー・マニア。

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