フジロック直前連載vol.1 小袋成彬、苗場の月明かり


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「FUJI ROCK FESTIVAL ’18」2日目、28日のレッドマーキーにシンガーソングライター小袋成彬が出演します。

「芸術っていうのは、なくてもいいもの。でも芸術家たちは、作品を生み出さなければならなかった必然性がある。それは川端康成もベートーベンも、宮崎駿も小袋くんも…」
そんな友人による独白から始まる、今年4月に発表された1stアルバム『分離派の夏』。これまで柴咲コウなどのプロデュースを手掛けてきた小袋が彼の才能に惚れ込んだ宇多田ヒカルのプロデュースを得て完成させた本作は、東京に生きる1人の人間の26年間が凝縮された、非常に私小説的な(「私小説とはリアリズムの仮面をかぶったロマンチズムの文学です」、中村光夫)傑作です。

シングル・コイルのクリーン・トーンで奏でられるアルペジオが美しいギター、間を活かした透明な空気を感じさせるリズム、クールに振る舞いながら時にエモーショナルに振り切ってしまうヴォーカル。それらは現在世界最高のアーティストであるフランク・オーシャンに通じる要素です。おそらく製作時に本人と宇多田ヒカルはある程度意識していたのではないでしょうか。

学生時代は野球に熱中していた、というらしく、彼の音楽には文学性と身体性が同居しています。またポジションがセカンドだった、というのもとても腑に落ちるところです。周りをよく見て声をかけ、配球に合わせてポジションを取り打球にリアクションする。そんな視野の広さとフットワークの軽さ、バランス感が個人的でありながら開放的、濃密ながら軽やか、自らを卑下せず同時にナルシズムにも陥らず、という印象を楽曲に与えています。

『分離派の夏』には夏の情景、心象風景をリリカルに綴った詩が多く収められています。

「指輪を拾ったり 苗場の月明かり ステージの光 土砂降りのパリ
見えない何かに馳せていた想いもきっと」 『夏の光』

この美しいラインをフジロックで聴くという体験。それは何年後かに2018年を振り返ったとき、忘れられない記憶になっているのではないでしょうか。

 

聴きこむ編集部ライター 
吉田昂平: 大学で映画評論を専攻。映画、音楽、サッカー、野球に情熱を燃やす。バンドでベースとギター経験もある、弾けるライター。

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