グリーズマンとチャンス・ザ・ラッパー。レ・ブルーとセイヴ・マネー、混じり合う美しさについて


Soccer players in action on the sunset stadium background panorama
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2018630日。フランス代表がメッシ擁するアルゼンチン代表を4-3で下し、準々決勝へ進みました。ンバペの超高速ドリブルから得たPKをグリーズマンが決めて先制、しかしディ・マリアのスーパー・ミドルと神様メッシが自らをエリア内でボールを持たせた罰を与えてアルゼンチンが逆転するも、パヴァールがディ・マリアの上をいくスーパー・ミドルを突き刺し返し同点。一気に流れを引き寄せたフランス代表が、今大会を象徴するゴールとして後世に語り継がれるだろうあまりに美しい、関わった全ての事象が美しいコレクティヴ・カウンターを完成させて逆転。その後両者1点ずつ加えて歴史的な、このまま永遠に見ていたくなるような一戦は終わりました。

あれから2日ほど経った初夏の休日にこの文章を書いていますが、今でも思い返すと心が震えるのをはっきりと感じます。その中心にいたのがフランス代表の7番、アトレティコ・マドリード所属のアントワーヌ・グリーズマンです。音速の超新星ンバペ、マケレレ2世カンテ、ブラックパンサー・ポグバ、バランサーとしてセンスの塊マチュイディ、と多士済々な黄金の中盤の真ん中で走り守り繋ぎ決める、美しき27歳。彼が裏を狙うことでデプスが生まれ、ボールを追うことで時間が生まれ、サポートすることでルートが生まれていました。ジダンやリケルメのようなクラシカルで優雅な司令塔とは違う、アイマールや香川真司のようなポップで軽妙な司令塔です。

 感動と恍惚を感じながら彼を見ていると、チャンス・ザ・ラッパーの姿が重なってきました。今夏ついにサマーソニックで初来日公演を行う(待ち望んでいました!)、シカゴ出身の25歳。ラッパーでありシンガー、そのトラックはとてもオープン・マインドです。ゴスペル、教会音楽の影響たっぷりにヒップホップの枠を軽々超えていく楽曲展開、芳醇なプロダクション。ラップと歌を自在に行き来して時に混じり合ってしまうスキル、深さと親しみやすさを兼ね備えたリリック。それらをシカゴのミュージシャン・コミュニティ「セイヴ・マネー」周辺、他の地域の志を共にする仲間たちとのコラボレートで作り上げます。Nonametowkio、フランシス・アンド・ザ・ライツ、ジャミーラ・ウッズ、サバ、ダニー・トランペッツ、ジャスティン・ビーバー、チャイルディッシュ・ガンビーノ、カニエ・ウェスト…。白人も黒人も男性も女性も、全てが相互に作用し合って混じり合い助け合い、質の高い作品を生み出し続けているのです。

 

また、チャンス・ザ・ラッパーはシカゴの顔役であり、外交官でもあります。教育機関への多額の寄付、文化的イベントの主催、党派に拠らない投票促進キャンペーン。そこにあるのは「世界を良くするため少しずつ前に進んでいこう」という信念です。そのアティチュードに引き寄せられ、連帯の輪が拡がっています。

 

アルゼンチン戦。万雷の拍手に包まれてピッチを去ったンバペを、先にベンチに下がっていたグリーズマンが優しく抱きしめました。拒絶、断絶が何も生み出さないのは、歴史が証明しています。それぞれのルーツ、キャラクターを尊重しながら共存することで多様性、複数性がもたらされる。そうすることでフランスの3点目やチャンス・ザ・ラッパーの楽曲のような、美しい瞬間が生まれる。壁を作るより、橋を作ろう。音を、パスを繋げよう。深刻にならず、笑顔でポップに。これこそが世界をより良くするための、大きなヒントなのではないでしょうか。

 

聴きこむ編集部ライター
吉田昂平: 大学で映画評論を専攻。映画、音楽、サッカー、野球に情熱を燃やす。バンドでベースとギター経験もある、弾けるライター。

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