映画「万引き家族」と細野晴臣さんの音楽について


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是枝裕和監督、カンヌ映画祭パルム・ドール受賞作「万引き家族」を観ました。黒沢清監督と並び現在日本最高の映画作家。「誰も知らない」、「そして父になる」、「海街diary」などこれまでの作品すべてに連なるテーマをまた深く、なによりも信じがたい向上心で丹念に磨かれた演出テクニックを駆使して映画的に描いた大傑作です。

音楽を担当したのは細野晴臣さん。そのプロフィールを記述することなど不要でしょう。日本のポップ・ミュージックにおける神様です。
映画音楽は05年、犬童一心監督「メゾン・ド・ヒミコ」以来久々の仕事になります。犬童監督はその前作「ジョゼと虎と魚たち」で音楽を当時まだ若手バンドの一角だったくるりに以来、見事な実りを生み出します。くるりは是枝監督11年作「奇跡」でも音楽、主題歌を担当。細野さんとくるり、日本ポップミュージックの神と神の子ども、その系譜です。

「万引き家族」に寄せた細野さんのスコアはとてもシンプルです。細野さん自身の親密な演奏、エディットによるギター、鍵盤、パーカッションが最大でも4トラックに収められています。それが子どもによる(リリー・フランキーさん演じる父親も子どもです)万引き描写のサスペンス、中盤まで引き延ばされる夏休みの感覚、家族になっていく幸福感と合わさり、穏やかなハーモニーとなって観客の感情移入を誘うのです。それは風に似ています。ふとした瞬間に現在と記憶を繋ぐ、懐かしい風。

しかし映画は後半、非常に厳しいメッセージを投げかけます。社会が、私たち自身が「あいつらは負け組だから」と切り捨てて見ないようにしている人々、可哀想だと憐れむポーズをしながら自己肯定の道具と見なされている人々、自分がそちら側になること、なっていたかもしれないことを恐れられる人々。カンヌ映画祭審査委員長を務めたケイト・ブランジェットの言う「invisible people」を可視化するのです。

感涙のカタルシスを許してくれないラストシーン。暗転して少しの間を置いて流れる、それまでの劇中曲のコラージュは、観客の心に風を吹かせます。これはあなたが生きているのと同じ空の下の物語だよ。あなたもその一員なんだよ、と。

映画や音楽は現実の問題を消し去りはしません。そんなのは堕落した作り手と怠惰な受け手の共犯によるまやかし、嘘でしかありません。
「万引き家族」のような誠実な、勇気ある作品は現実を見据えるきっかけを、どのように生きていくかのヒントを、国籍だの負け組だの誰かが勝手に決めた枠組みではなく、自分の意志で今を生きようとする観客に提示するのです。

 

聴きこむ編集部ライター
吉田昂平: 大学で映画評論を専攻。映画、音楽、サッカー、野球に情熱を燃やす。バンドでベースとギター経験もある、弾けるライター。

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