綺麗だねって言えたなら あいみょん『裸の心』のCメジャーに寄せて

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6月17日、あいみょんの新曲『裸の心』がリリースされました。

同日にシェアされたMVは1日で30万再生を記録。シャワールームですべてをさらけ出すように叫ぶあいみょんを1カメラでとらえた切迫感溢れる映像は楽曲世界と社会、世界情勢に見事合致。海外からのコメントも多く、今作の質の高さとアクチュアルさを雄弁に物語っています。

もともとはポップス路線(『マリーゴールド』『君はロックを聴かない』)とオルタナティヴ路線(『愛を伝えたいだとか』『満月の夜に』)をバランス良く配してきたあいみょんですが、2018年11月にリリースされた『今夜このまま』は苦くて甘い、ピュアでエロい、ポップスとオルタナティヴの2つの路線の曖昧な境界で揺蕩うような新たな可能性を鳴らした意欲作でした。

大ブレイクを経てトップ・アイコンになった2019年はそれに相応しい巨大なタイアップがついた、マスへ向けたポップス路線の楽曲リリースが続きます。応えたタフさ、作家としての幅広さは大いに感じられ特に『ハルノヒ』は『マリーゴールド』と『君はロックを聴かない』をハイブリッドしたような良曲でしたが、確かな個性や『今夜このまま』で垣間見せた可能性のその先があったのかは疑問が残ります。

しかし『裸の心』にはリスナーの裸の心を鷲掴みにして激しく揺さぶる力、フロイトが定義する“魂”が宿っています。

楽曲のストラクチャーはアコースティック・ギター・オリエンテッドな、オーソドックなフォーク・ソング。ピアノ、ドラム、ベースにエレピとアコーディオンを加えたオーソドックスかつ狙いのハッキリしたアレンジですが、イントロで最初に鳴る独りの夜にシャワールームに響く水滴のような、アリアナ・グランデ『7 rings』を思わせるリヴァーヴをたっぷり効かせた4分のパーカッション(シンセ?)が全編に渡り絶妙な陰影を及ぼしています。

G#から5度、4度を周りツー・ファイヴに帰るヴァースとコーラスのコード・ワークは『君はロックを聴かない』と共通する必殺のクリシェ。あいみょんが敬愛するスピッツや吉田拓郎、浜田省吾の文脈にある、彼女の楽曲に懐かしさを感じさせる主だった要素の一つです。

コーラス6小節目の3拍目。セオリーではマイナー・コードの3度、Cmでも充分成立するところですが、『裸の心』ではメジャーのCメジャーを鳴らします。

このたった半音、一滴のアイデアが冒頭の4つ打ちのパーカッションと響き合い、不完全な自分のまま、『裸の心』のままどこまでも落ちてしまう恋の切なさ寄る方なさを表象していて、リスナーの恋の景色と響き合いそれぞれの内面のスクリーンにそれを投射してしまうのです。それがあいみょんのLIVE映像で数多く映される、観客の流す美しい涙の理由です。

そこにはやはりあいみょんが崇めるスピッツの影響が強く感じられます。『夢追い虫』のコーラス一発目に一瞬で世界を変えてしまうC#。『楓』のプリ・コーラス最後「夢もあったけれど」「信じていたのに」と”but”のニュアンスを突きつけコーラスのFmに繋がるC。

ドミナント・モーション、クロマティックなディミニッシュを挟みこみ言葉の隙間を表象する術に長けたofficial髭男dism、音楽的博識と技術を大衆性あるポップミュージックに落としこむKing Gnuとはまた違う、情報量を詰め込みすぎない骨太なあいみょんの個性がそこにあります。

カップリングの『ユラユラ』は月明かりのドリーミーなサウンドに官能的な言葉たちを泳がせたギターポップ。『裸の心』とのバランスは完璧。

ブラインド越しに見える月を

「見ながらしよう」と言った夜

「綺麗だね」って私に

最初に言って欲しかったのよ

島本理生さんの小説、羽海野チカさんの漫画にも通じる1stヴァースに、すべての(元)男子は心を射抜かれること必至でしょう。

またスピッツでも屈指の名曲『スピカ』内の…やはり先述した3度のF#メジャーが際立たせる「言葉より温もり求めて突き進む君へ」という日本文学史に残したくなる狂おしいほど切なく官能的なフレーズとも響き合っています。

このシングル、『裸の心』という楽曲は深く長く、それぞれの恋と孤独に寄り添うでしょう。そんな「自分のための歌」がライヴハウスで、ホールで、アリーナで「みんなの歌」になったときの感動が遠くない未来に待っていることを願っています。

ライター紹介 吉田コウヘイ

在野にて評論活動修行中。アメリカン・ニューシネマ、五月革命、カウンター・カルチャー、ウィノナ・ライダーの信仰者。

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