快楽を鳴らせ タッシュ・サルタナ Tash Saltana

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かつて『野性の少年』という映画がありました。

フランス、ヌーヴェル・ヴァーグの代表的映画作家フランソワ・トリュフォーによる、実話を元にした奇跡のような作品。
7歳まで文明から隔離され森の奥地で生きてきた少年が保護され教育される過程を、トリュフォー自ら演じる教師の視線から描きます。
名手アルメンドロスによる撮影でとらえられる主人公を演じたジプシーの少年の瞳、アクションが心にいつまでも残ります。

オーストラリアはメルボルンが育んだ奇跡、タッシュ・サルタナを見ていると、筆者はその映画の主人公を思い出してしまうのです。

アボリジニの血を感じさせる深い瞳と豊かにウェーブがかかった長い髪、ギッシリ刻まれたクールなタトゥー。
裸足でピョンピョン跳ね回り、ギター、キーボード、ドラム、マイクに貪るように食らいつき音を奏で重ねる。
音を奏でるために生まれてきた。そうとしか思えない、神に愛された子。

3歳で手に取った「私にとってホームといえる楽器」と語るギターで13歳からバンド活動をスタート。
感度の高い音楽ファンから注目を集めますが、ドラッグに溺れ17歳で脱退。施設に入り、治療を受けます。

タッシュ本人は否定するかもしれませんが、彼女がクリエイトする音楽、特にジミ・ヘンドリックスの再来と呼ばれる宇宙と交信するような、Fender Telecaster、Stratocasterで奏でられるサイケデリックな長尺のギターソロにはこの時期のトリップ体験が色濃く反映されています。
実際SUMMERSONICでのステージを観た観客の複数が「これはもうドラッグだ」とツイートしていました。ギターソロが始まった瞬間に目の前のカップルが熱いキスを始めた、なんてレポートも。最高の音楽は最上の快楽を生み出すのです。

依存症を克服した後、生計を立てるため「バスキング」と呼ばれる地元メルボルンのストリートエリアでパフォーマンスを始めます。

テーム・インパラ、コートニー・バーネット、ステラ・ドネリーなど近年多くのミュージシャンを輩出しているオーストラリア。その最大の音楽都市メルボルンの最も熱いスポットがバスキングです。

自治体が運営する管理局に応募して説明会を受講すれば、ミュージシャンだけでなく様々なアートパフォーマンスが行えます。タッシュのブレイクにより、今後さらなる注目を集めるのが必至のエリアです。

バスキングで腕を磨き、2016年から始めたYouTubeチャンネルの配信映像で世界的な注目を浴びます。

同じマルチ・インストゥメンタル・プレイヤーで現在BLUE NOTEと契約し世界中で活躍するジェイコブ・コリアーがYouTubeで注目を浴びたのもこの時期でした。

しかしBOSSのループ・マシーンを駆使してリアルタイムで音を重ねるタッシュのスタイルはよりダイレクトで臨場感があります。前述した『野性の少年』の長回し映像と似たスリルは路上でのパフォーマンス、在野で育まれたモノでしょう。

「音楽理論なんて知らない。ああいうのって退屈すぎて」

そう言って笑う24歳。

やはり破格のタレントはガチガチに管理され飼い慣らされたシステムでなく、最低限のルールの上での自由から生まれることを、セカンド・チャンスを与えられるのが当たり前の社会でこそ育まれることを確信させてくれます。

今後はバンドメンバーを加えより大きなチーム体制で活動することを示唆するタッシュ・サルタナ。これからの成功と、その前の過渡期の魅力を感じられる単独来日公演の実現が期待されます。

ライター紹介 吉田コウヘイ

在野にて評論活動修行中。

アメリカン・ニューシネマ、五月革命、マッドチェスター、ウィノナ・ライダーの信仰者。

Twitter:tele1962

Instagram:telecaster0225

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