SEKAI NO OWARIが待望のニューアルバム『LIP』『EYE』を2枚同時にリリースしました。特に『LIP』のリード・トラックでもあった『YOKOHAMA blues』が素晴らしいです。
コズミックなシンセ・ベースが先導するリズムが夜の街を、Saoriのキーボードがそこに吹く頬を撫でる潮風を、nakajinのワウ・ギターが主人公の揺れる心を表現する絶妙な演出が施されたトラック。
特にnakajinのギターはアイデア、プレイ両面で目を見張る効果を上げています。初期の名曲『幻の生命』でも16のカッティングを情感豊かに披露していましたが、10年近い時を経てより洗練されたそのプレイは本人のたゆまぬ努力の賜物でしょう。
代表曲『RPG』でのコード・アレンジで垣間見せていたジャズ・ギターの素養が、2015年の筆者の私的最高傑作『ANTI-HERO』に続き前面に、よりアダルティに表象されてきました。
前述したベースのサウンドは『YOKOHAMA blues』の先導役であり楽曲のカラーを決定付けています。太くキレがあり、なによりエグさと上品さが絶妙なバランスで共存するそれは何度でも聴きたくなる中毒性を醸しているのです。
使われたエフェクターはハンガリーのエフェクター・ブランドPANDAMIDI SOLUTIONS製のベース・シンセ、Future Impact 1。AKAIの伝説的名機を復刻したこのエフェクターを、nakajinが専用ソフトで音色を作りレコーディング。
「Sound & Recording」のインタビューで「やり直しになると心が折れる」と苦笑するほど細かく地味な作業を経ての、それだけの価値が十二分にある成果を見事に上げています。
SEKAI NO OWARIの主役はFukaseの声。彼が選んだマイクはAKG C12。
現行の復刻モノで70万円、状態の良いヴィンテージだと200万円を軽く越える名機です。
親友である小沢健二に借りて使用して以来、このモデルをレンタルできるスタジオでSEKAI NO OWARIのレコーディングは行われています。
「恋愛小説の主人公というのが現実の存在であること、ありとあらゆる恋愛主体が思いを込める、絶対的な実体」ロラン・バルト
こうしたこだわりをもって録られたトラックで描かれる歌世界。ひとつの街を舞台にしていても、だからこそ普遍的なラヴソングとなっています。
「潮の風にのって 君の香水の香りがした気がして振り返る 君がいないこの街」
どこかKinki Kidsの名曲『愛のかたまり』を思い起こさせるライン。香りが呼び覚ます記憶。Fukaseの心象が普遍性を、ミクロがマクロに拡がっていく、ポップソングの本質。
「ラヴソングは苦手」と語っていたFukaseですが、この歌詞にはこれまで彼らが紡いできたテーマがしっかり息づいています。
「2つあって初めて答えなんだよ」 『天使と悪魔』
「正解なんてバケモノは本当は存在していない」 『世界平和』
「僕の正義がきっと彼を傷つけていたんだね」 『Dragon Night』
それぞれの生き方、考え方、付き合い方があってそれが摩擦することで熱が生まれる。
美しいばかりじゃなく、悔しさや名残惜しさがいっぱい。だけど限りある生の中で恋をしないよりは、ずっといい。
「これってなんの涙なんだろう」
過去と現在、人と人の間にある曖昧な何かを描いた名曲です。
映画、音楽を中心に在野にて評論活動修行中。学生時代は映画と社会政治運動について研究。
五月革命、フラワー・ムーヴメントなどカウンター・カルチャー信仰者。
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