Beirut 『Gallipoli』 ベイルート ここではないどこかへ

semi hollow body electric guitar on dark wooden background
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アメリカ、ニューメキシコ州サンタ・フェ出身のザック・コンドン率いるBeirutの5th Album 『Gallipoli』が素晴らしいです。

スラブ、マヌーシュ・スウィングを思わせるホーン・セクションとUSインディな楽曲が絶妙に折衷。
「フレーズを立てるよりもサウンドを出し入れして輪郭をぼやかした」というザック・コンドンの狙い通り、見知らぬ土地で陽光に包まれているかのような感覚を起こすテクスチャー、トータル・コーディネートが見事です。

『Gallipoli』の制作のきっかけは、まだ何者でもなかった10代の頃作曲を始めた時に使っていたオルガンに久しぶりに触れたことでした。
「探していたサウンドが甦ってきた」というそのサウンドはコンドンが最も影響を受けたというビーチ・ボーイズの傑作『ペット・サウンズ』を思わせる美しいポップ・ソング『Landslide』でフィーチャーされています。

そのオルガンは、コンドンがバイトしていた映画館の物置に置き去りにされていたモノでした。世界中、古今東西の映画を上映するこの映画館で観たエミール・クストリッツァの作品に衝撃を受けたことが音楽活動を始める動機になったと語っています。

エミール・クストリッツァはサラエボ出身。母国ユーゴスラビア50年の紛争の歴史を寓話的かつ圧倒的なまでのエネルギーで描いた大傑作『アンダーグラウンド』を代表作に持つ映画監督にしてミュージシャン、ギタリストでもあります。

クストリッツァ以外にフェイヴァリットに挙げているのがウォン・カーウェイとフェデリコ・フェリーニ。現実と心の距離を巡る作品を多く撮っている映像作家たちです。

その影響が色濃いbeirutの音楽にはアメリカに軸足を置きながらどこか遠くの場所を夢見ているかのような、内的なロードムービーのような感覚が常に響いています。

ある意味、前述したビーチ・ボーイズの中心人物ブライアン・ウィルソンもそんな作家なのかもしれません。ここではない、どこか。幻想でしかない、なにか。それらへの焦がれるほどの想い。

ザック・コンドンは長く暮らしたNYを離れ、ベルリンを拠点に今作をレコーディングしました。
「ドナルド・トランプが生活に侵食してくるのに耐えられなかった」と本人は話しています。
映画が大好きで語学を学ぶのが趣味のザック・コンドン。風のように雲のように自由な彼の精神とBeirutの音楽は密接に繋がっています。

「私は国際主義者です。今世界中で起こっているナショナリズムの台頭には耐えられない」ブライアン・メイ

『Gallipoli』は批評家、リスナーから高い評価を浴びています。このタイミングの来日公演を望む声も当然出てくるでしょう。

筆者の個人的願望としては、ぜひ夏の自然の中でこのサウンドをあびてみたい。できれば苗場の、天国に最も近い場所で。

ライター紹介 吉田コウヘイ

映画、音楽を中心に在野にて評論活動修業中。

大学で映画理論を学び、映画と社会運動について論文執筆。

五月革命、アメリカン・ニューシネマ、フラワー・ムーヴメントなどカウンター・カルチャー信仰者。

Twitter アカウント: tele1962

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