2019年1月23日。
シンガー・ソングライター澤部渡さんのソロプロジェクト、スカートの新曲『君がいるなら』がリリースされました。
スカートの『君がいるなら』をApple Musicで聴く
映画『そらのレストラン』の主題歌『君がいるなら』、同映画の挿入歌『花束にかえて』の書き下ろし2曲と2014年にリリースされた代表曲『すみか』を再録。充実の、かつ軽やかなシングル盤です。
「不安でも、前を向いていたい」『君がいるなら』
『君がいるなら』はテレキャスターのジャキっとしたソリッドなカッティング、エヴァーグリーンなアルペジオを中心に、辿々しさが静謐さを醸すピアノ、ナチュラルなベースとドラムのエイトビートが心地いいポップ・ソング。
その上に澤部さんの優しい歌声が瑞々しい言葉を運び、リスナーの心に春の息吹きを届けてくれます。
『花束にかえて』は前シングル『遠い春』に連なるミドル・バラッド。
歌い出し3拍目のコードがギュッと胸を締めつけます。
映像との相乗効果がかなり高いことが推察できるサウンド、余白の多い歌詞が素晴らしいです。
デビュー以来音楽ファンの熱い支持を集めてきたスカート。
筆者がその存在を知ったのはスピッツが『みなと』(日本音楽史に刻まれるべきマスターピースです)を引っ提げてミュージック・ステーションに出演した時でした。
崎山さんと三輪さんの間で口笛を吹いている、この大きな人は何者なんだ…?
Twitterのタイムラインに出てきた「スカート澤部」を検索。トップに表示された『CALL』に、完全にノックアウトされてしまいました。
淡々とルートを刻むベース・ラインに2本のギターが重なり、物語が始まる。
青春の、若さの危うさと美しさをこれ以上ないほど完璧に切り取った14秒の魔法的瞬間。
それから何度かライヴに足を運びましたが、目を惹いたのはそのギターワークでした。
大きな身体にちょこんと鮮やかなスカイブルーのリッケンバッカー360をのせ、親指と小指を駆使して複雑なコード・フォームを連発。しなやかな右手首で16ビートをカッティング、360の独特な丸みを帯びたサウンドと相まって最高にソウルフル。まるで全盛期のポール・ウェラーじゃないか、と舌を巻きました。
2017年にアルバム『20/20』でメジャー・デビュー。この時澤部さんは30歳。前年に発表した3rdアルバム『CALL』で「出しつくした」「やりたいことをやりきった」とインタビューで話しています。
おそらくこのタイミングで「職業音楽家」として生きる決意を固めたのではないでしょうか。
以降はまっさらな状態からドラマや映画のタイアップを受けて、大喜利のようにお題を与えられて答え、つまり曲を当て書きすることを楽しんでいるように見えます。音楽的なだけでなく、ポップ・カルチャー全般への知識と理解があればこそ。
「何もなくても 君がいるなら 僕はまだ歩いて行ける」『君がいるなら』
1月23日にはついに定額ストリーミング・サーヴィスでの配信が解禁されました。
自身のラジオ番組で度々CDへの、フィジカルへの拘りを口にしていた本人は複雑な心境かもしれませんが、これも1つのキッカケになるかもしれません。スカートの音楽はもっともっと広まるべき、聴かれるべき強度を持っています。
ストリーミング・サーヴィスで聴いて、気に入ったらぜひCDを、出来ればレコード盤を探してみてください。隅々まで配慮されたサウンド、そして澤部さんの美意識、拘りを感じるアートワークが堪能出来るはずです。
「いちばん狂ってる人が作る音楽がポップスだと思う」
澤部さんがインタビューで度々口にする言葉です。
ポール・マッカートニー、トッド・ラングレン、フィル・スペクター、ブライアン・ウィルソン、山下達郎、大瀧詠一、岸田繁。
偉大なるポップ・マエストロの系譜、その大きな最新形です。
スカートの『君がいるなら』をApple Musicで聴く
映画、音楽を中心に在野にて評論活動修行中。大学では映画理論を専攻。ケン・ローチ、カウリスマキをテーマに映画と政治、社会運動について論文執筆。
五月革命、ニュー・シネマ、フラワー・ムーヴメントなどカウンター・カルチャー・マニア。