Maggie Rogers 『Heard It In A Past Life』 マギー・ロジャース、透明なすき間

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2019年1月18日。
ジェイムス・ブレイク、トロ・イ・モアら多くのアーティストが新作を発表しました。どれも力作、重要作揃いのなか、一際美しい輝きを放つのがNYを拠点に活動するSSW、マギー・ロジャースの『Heard It In A Past Life』です。

マギー・ロジャースの『Heard It In A Past Life』をApple Musicで聴く

2017年のフジロック。かなり早い段階でのラインアップ写真の1枚に筆者はどうしようもなく惹き付けられました。
キャロル・キング、ダイアン・キートン、ジョニ・ミッチェルなど眩い70年代を思わせる雰囲気。
子どもと大人、無垢と成熟、強さと弱さ、可愛さと美しさ。それらのあわいでたゆたうような表情。
この人はどんな人なんだろう?そう思わせずにいられない、心が騒ぐ感覚。

アメリカ、メリーランド州の緑豊かな田舎町に生まれ、ボブ・ディランやキャット・スティーヴンスなどのフォーク・ミュージックに親しみ育まれた感性がニューヨーク大学芸術学部で様々な理論に触れたことで開花。ファレル・ウィリアムスを招いた特別授業の課題作品として制作した『Alaska』をファレルが激賞、一気に注目を浴びることになりました。

「私はあなたと別れた 古い私と別れた」
「深く息をする あなたと私の間には透明なすき間」

深い森、静かに流れる川。静謐なサウンドに乗せて地声とファルセットを巧みに使い分け、
恋の終わりと追憶を描写するマギー・ロジャースの表現力、ライティング・テクニックが光ります。

浮き足だってもおかしくない状況でしたが、このトラックを核に据えたEP『Now The Light Is Fading』、数々の新曲をこれまでに着々と発表。

ライヴの場数も重ね、2017年夏にはフジロックに出演、初来日を果たします。遠いアジアの地で自分の音楽が受け入れられているのに感激し、ステージ上で声を詰まらせるシーンも。

すっかり実力派若手として認知されるようになった2019年、待望のフル・アルバムが発表されたのです。

そのサウンドはエレクトリック、アコースティック、打ち込み、ドラムとヴァラエティに富み、それぞれが輝いています。まるで彼女の曲に選ばれ鳴らされることを心から喜んでいるかのように。

ピアノ、ギター、バンジョーを弾く卓越した演奏家でありつつダンスの創作もする、しなやかなフィジカルを持つアーティスト。その反射神経で的確に言葉と音を捕まえています。

2018年にシェアされた『Light On』『Fallingwater』はもちろんのこと、ディレイ・ギターの響きと間奏のコーラスが冬空に舞う鳥を思わせて雄壮な『Retrograde』、グルーヴィなベースラインが腰を揺さぶる妖しいファンクチューン『The Knife』、多くの人の記憶の扉を優しくノックするだろう叙情的なバラード『Say It』など全てのトラックがシングル・カット可能なほど魅力的。
加えてそれぞれが幅を取りつつテーマ、サウンド共にコンセプチュアルにカラーリングされているため、全く散漫な印象を与えずにアルバムとして高い完成度を誇っています。

「今、私は闘っている 今、私は自分と闘っている どこかに行くと気づく 私は私なんだと」

ラストを力強く締める『Back In My Body』のリフレインです。

瞬発力が悪戯に求められてしまう昨今のポップ・ミュージックのシーンでは異例と言えるほど長い制作期間を経て届けられた今作『Heard It In A Past Life』は、少女が1人の女性になるドキュメント、自分を見つけ還ってくるオデッセイでもあるのです。

最後に。
デビューの際、彼女が公式サイトに寄せた素晴らしいメッセージを引用して、このレヴューを終わらせたいと思います。

「私は絶対に変わらない、とは断言できません。新たな人たちや考えに心を奪われ、世間に対する見方が変わってしまうことも、ないとは言い切れません。それでも、私自身であり続けることは、約束できます」
「存在していること。オープンであること。一筋縄ではいかないこと。欠点があること。人間らしくあること」

マギー・ロジャースの『Heard It In A Past Life』をApple Musicで聴く

ライター紹介 吉田コウヘイ
映画、音楽を中心に在野にて評論活動修行中。大学でケン・ローチ、カウリスマキをテーマに映画と政治、社会運動について研究、論文執筆。
ヒッピー、フラワー・ムーヴメント、五月革命などカウンター・カルチャー・マニア。

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