LAを拠点に活動するシンガーソングライター、フィービー・ブリッジャーズが1st ALBUM 『Strangers In The Alps』から『killer』のMVを公開しました。
フィービー・ブリッジャーズの『Strangers In The Alps』をApple Musicで聴く
静謐なピアノにフィービーの美しい歌声が響く、冬の透明な空気にピッタリのバラードです。
歌われるのは時に殺したくなるほどの、愛の深淵。
「ときどき自分が殺人者なんじゃないかって気がする」
「追いかけるのに疲れた、けどまだ血に飢えてる」
愛すること、性行為は生命力の発露、爆発であり、女王蜂と働き蜂を例にするまでもなく死と隣り合わせです。そんな本質が表現されています。
「愛するのは、死が怖いからだ」 ノーマン・ジュイソン『月の輝く夜に』
後半、思わぬストーリーが紡がれます。
「私が病み疲れ果て、髪が抜けて、生命維持装置に生かされていたら」
「キスをして、あなたがプラグを抜いて」
「音楽と共に焼かれて、愛であなたを包むから」
もしかするとフィービーにはクリント・イーストウッド監督の傑作『ミリオンダラー・ベイビー』が念頭にあったのかもしれません。
愛とは、正しさとは、倫理とは、神とは。
キリスト教保守派の多いアメリカではかなりデリケートな題材ですが、フィービーは射抜くような冷たい眼で恐れず歌います。
昨年リリースされた『Strangers In The Alps』からのリード曲『Motion Sickness』。
「あなたが私にしたことが大嫌いで、あなたのことが子供みたいに恋しい」
心のアンビバレントさをこれ以上なくシンプルに表現したラインで世に出てきたフィービー。その歌声、またそれにあまりに似合う美しい容姿も相まって現在着々とファン層を拡げています。
フィービーは表舞台でパフォームする際はいつも黒い服を着ています。ブロンドの美しい髪と白い肌とのコントラスト。まるで喪服のようです。
ジョニ・ミッチェルに多大な影響を受けた作曲と、ニック・ドレイクを思わせる作詞。最近は同世代のシンガーソングライターであるジュリアン・ベイカー、ジョージ・ダッカスとのトリオboygeniusとしての活動も本格化させています。
ラップやエレクトロの影に隠れがちな、土や風の匂い、静謐な教会の床の軋みを感じさせるアメリカン・ミュージックの豊かさ。
未だ実現していない来日公演の、一刻も早い実現が期待されるアーティストです。
フィービー・ブリッジャーズの『Strangers In The Alps』をApple Musicで聴く
映画、音楽を中心に在野にて評論活動修行中。大学ではケン・ローチ、アキ・カウリスマキらを題材に映画と社会・政治運動について論文執筆。フラワー・ムーヴメント、五月革命、アメリカン・ニューシネマらカウンター・カルチャー信仰者。
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