夢見る頃を過ぎても シャムキャッツ『Virgin Graffiti』


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2018年11月21日。シャムキャッツの5thアルバム 『Virgin Graffiti』がリリースされました。

「愛のカタチなどわからぬまま大人になった つまりこのままじゃ少しだけ心配なのさ」

弾むリズムにのせてこんなふうに歌われる『逃亡前夜』からの、全13曲。
昨年の4thアルバム『Friends Again』で露わにしたバンドの身体に、彩り豊かな洋服を着させたような。子供みたいなヤンチャ心と大人の優しさが同居した、僕らの時代の代表作が生まれました。

今年5月に日本公開されたグレタ・ガーウィグ監督『レディ・バード』のパンフレットで、ヴォーカル夏目知幸さんが野中モモさん、森直人さんとの座談会に参加してこんなコメントをしています。

「いちばん泣けたのは、初めての彼氏にゲイであることを告白されて、どんどん悪くなるんだって泣き出した彼を…「大丈夫」って抱きしめるシーン。彼女が本質的に心が広い人だってことがわかる」

強く叩きつけるようなメッセージや叫びじゃなくて、キャラクターの関わり合いから感情が編まれ奏でられていく。それをキャッチしてもらうため、映像や演出の細部の創意工夫を積み重ねて、観客に感情移入を促していく。

このコメントはそのまま『Virgin Graffiti』の魅力、シャムキャッツの魅力を表しています。
日々の生活から、身の周りから生まれた感情をメロディにして言葉にして、仲間4人で鳴らす。それって普通。すごく普通なことを、技術、経験、知識、好奇心を持つ人間たちが奏でることでスペシャルになります。

弦の震え一本一本が、ストラトキャスターのスプリングの揺れが見えるような菅原慎一さんのギター。5弦と2フィンガーを駆使して4ピースのアンサンブルを抜群にグルーヴさせる大塚智之さんのジャズベース。16分のさらにその先、32も64すら感じさせる、ミディアム・テンポに穏やかな宇宙を描くことが出来る藤村頼正さんのドラム。優しさに溢れているけれどちょっと強がっているのがたまらなく可愛い、夏目知幸さんのヴォーカル。

先行シングル『このままがいいね』、『カリフラワー』と並び『Virgin Graffiti』の核であり全体を象徴する3曲目『完熟宣言』。

「僕たちの新しい地図には宝のありかは描かれてないよ こうやっていつも迷いながら歩いてゆこうよ」

ビート・パール・ミニッツ90前後で、緩やかに転がるロックンロール。メンバー全員でメイン・ヴォーカルをリレーして未完熟な今を生き生きと表出します。そして全員で歌われるワン・フレーズ。

「もしも願いが叶うならば はぐれた仲間のぶんまで 幸せな未来をちょうだい」

今作に大きな影響を及ぼしたとメンバーがインタビューで早くから明かしていた、10年近く連れ添ったマネージャーの体調不良による離脱。そのかなしみ、喪失と向き合いながら転がり続ける強さが、メンバーが本質的に持っていた心の広さと混ざり合い『Virgin Graffiti』に特別な彩りを加えています。

9月26日に渋谷クラブクアトロで行われたMONO NO AWAREとの2マンLIVE。リリースのアナウンスはされていませんでしたが、収録曲の多くが新曲として披露されました。

「夢見る頃を過ぎても まだ夢を追う少女」
「1人のお弁当全然美味しくない」
「相変わらず心配かけるけれど ここでまだ頑張る」

中盤、Negiccoへの提供曲のセルフカヴァー『She‘s Gone』が演奏されると、フロアが暖かな雰囲気に包まれました。筆者の隣にいた、素敵な女性2人組が涙声でつぶやきます。

「いい曲だね…!!」

やはりこの『Virgin Graffiti』は日々の恋愛や仕事で悩んだり喜んだり、例えば近所のドトールの店員さんと常連さんのやりとりとか、ホン・サンスの新作とか、DAZNで観るセルヒオ・アグエロのゴールとか、そんな些細な美しさをすくい上げながら生きている人たちだから鳴らせる、誠実な音楽です。だから同じように誠実に生きている人の心を包み込み、その生活の1シーンに彩りを添えます。

ギター、ヴォーカルの菅原慎一さんはリリース2日前にTwitterで「シャムキャッツは最高のバンドです」と突然ツイート。夏目知幸さんに「どうした」と愛のある返しをされていましたが、こんなふうにフレッシュな、Virginのような心持ちでいられるのが、メンバーと同じ1985年に生まれた筆者にはとてもとても眩しく見えます。

そうです、シャムキャッツは最高のバンドです。ギターを弾き始めた13歳の春から、シャムキャッツみたいなバンドをやりたかった。いや、きっと今でも。

僕は、シャムキャッツになりたい!

ライター紹介 吉田コウヘイ
映画、音楽を中心に在野にて評論活動修行中。大学ではケン・ローチ、アキ・カウリスマキらを題材に映画と社会・政治運動について論文執筆。

フラワー・ムーヴメント、五月革命、アメリカン・ニューシネマらカウンター・カルチャー信仰者。
Twitterアカウント: tele1962

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