アリアナ・グランデ『thank u,next』 巡りのなかで生きる自分


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アリアナ・グランデが新曲『thank u,next』をシェアしました。
今夏リリースした4thアルバム『sweetener』がグラミー賞最有力候補と目されるなか、かなり早いペースの動きと言えます。

しかしそれは必然の早さでした。今年9月、exボーイフレンドだったマック・ミラーが26歳の若さでドラッグで死去。全く落ち度がないアリアナにバック・ラッシュ、中傷が及びました。マック・ミラーの音楽を聴いた心ある人なら、彼がすぐに壊れそうなほど繊細な心を持っていたことが明らかなのに。

『thank u,next』の1stヴァースはこれまでの元彼について歌われます。

「ショーンとは合わなかった。リッキーについて何曲か書いたけど今聴くと笑っちゃう…」
その最後のラインはマック・ミラー、本名マルコム・マックコーミックに捧げられています。
「ありがとうマルコム。彼は私の天使だった」

『thank u,next』が作られたのがマック・ミラーの死去前なのか後なのか。それはわからないし、詮索するようなことではないと思います。アリアナはマルコムに薬物依存から立ち直ってほしくて、エールとしてこのラインを書いたのだろうと筆者は想像しますが、それは重要なことではないでしょう。

それより、この曲はラブソングです。それもとびきり極上な。

シンプルで美しいI→ⅤⅠⅠ→Ⅲ→Ⅴが全編にループ。その上をあえて音域を広げすぎない、高みへ行き過ぎず抑制を効かせたアリアナの歌声が静かなエモーショナルを醸し、旋律を描いてゆきます。

語られるのは良いことも悪いことも教えてくれた、元彼たちへの感謝。

「ある人は愛を、ある人は忍耐強さを、ある人は痛みを教えてくれた」
「ありがとう、そして次へ。ありがとう、そして次へ。心から感謝してる」

しかし『thank u,next』はこの後の2パートと3パートで驚くべき拡がりを見せます。

「私は友人と出会った。彼女は愛を、忍耐強さを、痛みの扱い方を教えてくれた」
「人は誰かに騙されているんじゃないか、って心配してくれるけれど大丈夫。その人はアリっていうの」

アリ、とはアリアナ自身のことでしょう。

それに続く3パート目。幼い頃の景色を主人公は思い出します。

「ママの手をとって教会の廊下を歩いていた。彼女はいつかパパに感謝する」
「すべては巡っていく。愛して、耐えて、傷ついて。愛され、失って」
「すべてを糧にしていけばいい」

私は私。大きなうねり、巡りの中で生きている自分を見つけ、未来に目を向ける。

こんな宇宙的とも言えてしまいそうなストーリーを、ミニマルでキャッチーなトラックにのせて、3分27秒の中で語っているのです。

アリアナは『thank u,next』のシェアの数日後、
「実際、セラピーは私を何度も救ってくれた。もし助けが必要なら誰かを頼って。痛みを自分だけで抱える必要なんてないし、トラウマは乗り越えられるから」
とSNSで発信しています。

恋愛は人生において、とてもとても大きな事柄です。それがなければ、私たちは生まれていないのですから。

筆者は33歳ですが、恋愛でドキドキしたり上手くいかなかったり、嬉しくて跳び回りたくなったりかなしくて塞ぎ込んだりすることは、あなたが精一杯生きるなら決して加齢と共になくなったりなんかはしないのです。あなたのパパもママも先生も、周りに見せないだけで。未婚既婚だ世間体だ、そんなことは一切関係なく。

恋愛で悩み、プロフェッショナルな方法のセラピーやカウンセリングを受けること、ちょっとの間その他のことを休憩することはとてもとても大切で、恥ずべき行為なんかでは決してありません。

「1人じゃどうにもならなくなったら誰かに頼れ。でないと実は誰もオマエにも頼れないんだ」 羽海野チカ 『3月のライオン』

Love is battlefield。傷ついた戦士には、治療が必要なのです。


歌詞の日本語訳は筆者による、全体の雰囲気やストーリーを織り込んだ意訳です。
「正解」や「間違っていないこと」を意図したものではありません。

聴きこむ編集部ライター 吉田コウヘイ
映画、音楽を中心に在野にて評論活動修業中。フラワー・ムーヴメント、五月革命、アメリカン・ニューシネマなど、カウンター・カルチャー信仰者。

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