吉田ヨウヘイgroup ライヴ・レポート ジャズマスターの夜


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2018年11月9日。渋谷O-nestで行われた吉田ヨウヘイgroup、『ar/F』ツアーファイナルに行きました。

2017年11月にリリースされ、豊かな音楽知識とフランク・オーシャンやチャンス・ザ・ラッパーら同時代のグッド・ミュージックへの批評性を絶妙にブレンドさせ各メディアの年間ベストにも多く取り上げられた4th アルバム『ar』のリリースから1年。ツアーまで時間を経たことでアルバム曲、それ以前の活動休止前に発表された過去曲、そして多く披露された新曲たちと、これまでとこれからの姿が凝縮された、ある意味でバンドの集大成と言えるタイミングになりました。

吉田ヨウヘイ、西田修大、reddam、クロのメンバー4人とサポート3人を入れた7人編成。
ES-335の爪弾きによる甘いトーン。キーボード、プログラミングを操りながら安定したピッチで彩りを加える女声ヴォーカル。涼やかな風を吹かせるホーン。シンプルなセッティングでシンプルかつ的確にビートを刻むドラム。ほぼアンプ直でナチュラルなジャズベースの人懐こいサウンドを、2フィンガーとサムフィンガーを使い分けながら響かせる、「大人数編成バンドのベーシストのお手本」を示すかのようなサカモトノボルのプレイ。

彼らのミュージシャンシップ溢れるオーセンティックなアンサンブルが、朴訥な吉田ヨウヘイの歌声と混ざり合い温かな音像を浮かび上がらせます。ここまでのエレメンツでも充分に良質な、東京のインディ・シーンを代表するバンドです。しかし彼らには強烈な個性があります。それを生み出すのが和製ネルス・クライン、西田修大のギターです。

エフェクティブにサスティンを効かせた単音、身体ごと歪ませているかのようなディストーションのパワーコード、切れ味抜群のハイ・ポジションのカッティング、m7コードの、ブラック・フィーリング溢れる小指のトリル、繊細なアーミング。手首を固定した、腱鞘炎になってしまいそうなトレモロ奏法やブリッジとテイルピースの間をピッキングすることで生まれる強烈なサウンド。

多彩な引き出し、懐の異様な深さで楽曲を彩る…と思わせてスペースを与えられれば激流のようなソロプレイを繰り出します。メジャー、マイナー、ドミナントあらゆるスケールを駆使して時に流麗に時にナスティに。まるでカマシ・ワシントンのサックス、サンダーキャットのベースのように。現在世界の音楽シーンを牽引するLAジャズ、コズミック・ファンクのミュージシャンたちと肩を並べ得るレヴェルの高揚感、官能と狂気をそのプレイに感じてしまいました。

現代アメリカ、オルタナティブ・ロックの頂点に20年来君臨するバンド、Wilco。その中心メンバーにしてブルーノート・レーベルで精力的にソロ作品を発表するジャズ・ギタリストでもあるネルス・クライン。60年製の美しいスラブボードを有する黒いジャズマスターから奏でられる艶やかで時にナスティなサウンド、イマジネーション溢れるプレイは世界中のギタリストの羨望を集めています。

そのプレイに多大な影響を受けた西田修大は愛機のジャズマスターにネルス・クラインと同じくより激しいプレイを可能にするマスタリー・ブリッジを搭載。黒ではなく白なのは全く同じになること、コピーになってしまうのを何処か避けているのかもしれませんが、圧倒的に高めたテクニックと知識を出発点に、ジャンルに囚われず「西田修大」という唯一無二、独創的であろうとするそのアティチュードはネルス・クラインの正統後継者と呼ぶに相応しいものでしょう。

休憩を挟みたっぷり2時間。前売りのチケット代2500円、100人前後のキャパはこの音楽の豊かさに余りに見合っていません。ぜひ春の野音あたりで。または来夏、ぜひ苗場のFOHかマリンビーチで、このギターと共に夜空に向けてどこまでも舞い上がりたい。そう思わずにいられない、恍惚のステージでした。

聴きこむ編集部ライター 吉田コウヘイ
映画、音楽、サッカーを中心に在野にて評論活動修行中。フラワー・ムーヴメント、5月革命などカウンター・カルチャーの信仰者。

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