Homecomings 『WHALE LIVING』 忘れないように書いておくこと


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Homecomings待望の3rd ALBUM『WHALE LIVING』が10月24日、リリースされました。

これまでの、青春の輝きをそのままパッケージしたような前のめり感を抜けた先の、穏やかで落ち着いた、1つの作品として長く長く愛したくなる名盤です。

「航海の小舟が水面を揺らせば 恋人の窓辺に風が吹いて」

映画の冒頭に引用される詩の一節のように、アルバムのテーマを要約した、イントロダクション的な『Lighthouse Melodies』。ストリングス、コーラスのハーモニーがゆっくりと、子供を寝かしつける際の読み聞かせのように、リスナーをALBUMの世界に誘います。

その世界に眠り落ちてすぐ、アコースティック・ギターのストロークと舞い上がる煙のようなアルペジオで始まる『SMOKE』が素晴らしいです。

ポール・オースター原作、ウェイン・ワン監督の、アメリカ映画史に残る傑作のひとつ『スモーク』。10年以上毎朝同じ場所で同じ時間に写真を撮っている、ハーヴェイ・カイテル演じるタバコ屋の主人を狂言回しに、いくつかのエピソードをオムニバス的に繋げた、優しい映画です。

『スモーク』の登場人物たちはタバコを薫せながら、ここにはいない誰かのことを思い生活しています。
最初のエピソード。最愛の妻を事故で亡くして以来、書けなくなってしまったウィリアム・・ハート演じるタバコ屋の常連客の小説家は、主人の写真アルバムに興味を持って見させてもらいます。
「時は同じペースで過ぎていく。新しい顔が増え、古い顔が去っていく」

そう言いながら横に座るハーヴェイ・カイテルが、あるページでハートに視線を向けます。亡くなったハートの妻が写っていたのです。
そっと肩に手を置くカイテル。涙するハート。
その後、ハートは再びタイプライターに向かい、小説を書き始めます。

「忘れないように ここにずっと書いておくから
口ずさむ君がいなくなったら 煙の中で消えてしまう」

家族、恋人、友人、ペット、アーティスト。自分にとって大切な誰かがいなくなってしまう。それは私たちが生きている世界では逃れようがない、時間の不可逆性がもたらす残酷な事実です。

残された人間に出来ることはたぶん、少しの間かなしみに暮れたらそれを受け止めて、また自分の生活を始めること。「忘れないように、ここにずっと書いておき」ながら。「煙の中で消えてしまう」のを、ゆっくり自分の場所から眺めながら。

『SMOKE』にどうしても感動してしまうのは、この楽曲が私たちの生活と、創作行為についてそのものを描いているからではないでしょうか。忘れたくないことを忘れないように、今このときの感情を残してまた出会うために人形が作られ、絵画が描かれ、文字が書かれ、写真が撮られ、音楽が奏でられた。

「体が死んでもたましいは生きてるよ またいつか会えるのに そんなことも知らなかったの?」 さくらももこ『コジコジ』

『WHALE LIVING』の主人公は水平線を見つめたり、公園を歩いたり朝焼けを見たり。クジラが眠っているような海辺の静かな街で生活をしながら、離れている大切な誰かに手紙を書きます。暑かったり寒かったり、ではなくて高く澄み切った空が広がる季節の、ふっと心が透明になる瞬間の数々を、「今しか観られないような西日」の温かいアナログな質感でコーディネイトされた音像にのせて描写していきます。

ストリングスがフィーチャーされたポップの王道をゆくタイトル曲『Whale Living』でストーリーを一旦締めた後、エンドロールを美しい水色のリボンのように飾る『Songbirds』はこんなラインで終わります。

「歌にすれば忘れないでおけるだろうか たった今好きになったこと」

『SMOKE』と響きあう、オープニングとエンディングの見事な円環構造です。

一曲一曲を愛しみながら、誠実に奏でられ丁寧に編み上げられた一編のストーリー、『WHALE LIVING』。きっと多くの人の、それぞれの心の窓辺に、やさしい風を吹かせるでしょう。

聴きこむ編集部ライター 吉田昂平
映画、音楽、サッカーを中心に在野から評論活動修業中。カウンター・カルチャー・マニア。

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