星野源 『アイデア』 にこやかに、中指を


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2018年10月23日。星野源の5th ALBUM 『POP VIRUS』のリリースと、初の全国5大ドーム・ツアーの開催がアナウンスされました。ポップのウイルス。感染するのは喜びだけではなく、もしかすると病んでしまうこともあるかもしれません。しかし乗り越えると免疫が出来てより強い自分になれる。新しいポップが生まれる。そんなストーリーを読み解きたくなるタイトルです。

2018年も最終コーナー、年末が近づいてきました。今年の紅白歌合戦、朝の連続ドラマ『半分、青い』の主題歌を担当した星野源の3年連続出場は間違いないでしょう。

ブラック・ミュージックの官能性とJ-POPのキャッチーさ、両方の手綱を離さずにハイブリッドさせた“イエロー・ミュージック”を標榜、その1つの完成形を提示してみせた代表曲『恋』。

『恋』の「夫婦を超えてゆけ」というメッセージのその先、
「出会いに意味などないけれど 血の色 形も違うけれど いつまでも側にいることが できたらいいだろうな」
という美しい感情をモータウン・サウンドにのせて歌い上げた感涙必至の名バラード『Family Song』。

どちらも紅白のハイライトと言えるステージでしたが、今年歌われるだろう楽曲が8月20日に配信リリースされた『アイデア』です。

マリンバとストリングスをフィーチャーしたイントロから、「夢を連れて」「生活のメロディ」「湯気」「おはよう」と星野源のキャリアをダイジェストする言葉とメロディ、アレンジで「おはようございます、星野源です!」と日本中に挨拶しているかのような、「満を持して朝ドラの主題歌を担当することになった星野源」のイメージに本人が全力で答えようとしているかのような、それらを
「おはよう 世の中」
「悲しみに青空を」
と、ドラマとしっかり絡めながら朝ドラの絶対的な尺、1分20秒ほどにきっちり収める。超優等生なタイアップ・ソングです。

しかしドラマオープニング部で使われたパートが終わり、
「おはよう、真夜中」
と2パート目が始まると、この楽曲世界は一変します。

それまでの華やかなウワモノが消え、STUTSによるMPC1000が孤独な、夜の景色を浮かび上がらせるように響きます。

「虚しさとのダンスフロアだ 笑顔の裏側の景色」

伸びやかに朗らかに両手を広げていた星野源の内面に、表舞台にいる表層としての星野源の何十倍の、ほとんどの時間を捧げているであろうクリエイターとしての実像が映し出されます。

「独りで泣く声も 喉の下の叫び声も 全ては笑われる景色」

誰かと繋がるため、笑顔でコミュニケイトするために深く潜り、コードをリズムをサウンドを言葉を探る時間。それはどれだけ好きでもやり甲斐を感じていようとも、孤独で厳しい、とてもハードな作業です。それが多くの人間を動かしお金を生み、時には誰かの人生を決定的に変えてしまう。そのプレッシャーに泣きたい夜もあるだろうし、焦燥から叫びたい夜もあるでしょう。その苦しみを理解しようとしない、意図的に理解することを避ける機械のような、心ない者に傷つけられることもあるかもしれません。

「生きて ただ生きていて 生まれ踏まれた花のように」

これは星野源や「半分、青い」の主役たちのようなクリエイターだけではなく、それぞれの場所で日々を懸命に生きている私たち自身のことでもあります。会社員、教職員、スポーツ選手、公務員、料理人、販売員。
この記事を書いている私だってそうです。自分の限界、足らなさを痛いほど実感しながら、自問自答しながらなんとか言葉を探り当てようと潜り、踠き、カタチにする。返ってきたリアクションを受け止めて励みにしながら、時には理不尽に思えるそれらに怒り負のエネルギーにしながら、胸の奥で炎を燃やしながら少しでも前に進もうとする。心の中で、「にこやかに中指を」立てながら。いつか「すべて超えて届く」日を信じて。

長岡亮介のトゥインギーなテレキャスター、前のめりなストリングスとMPCのサウンドが一体になり、フランシス・アンド・ザ・ライツ『See Her Out』に似た覚醒を誘うような間奏が終わり
「闇の中から歌が聴こえた あなたの胸から刻む鼓動はひとつの歌だ」
というラインがガットギターで弾き語られます。
ソロ活動初期の大名曲『くだらないのなかに』の
「僕は時代の物じゃなくて あなたの物になりたいんだ」
という、思い出すだけで胸が締めつけられる素晴らしいラインを想起せずにはいられません。数々の逡巡を経て戻ってくる場所。「あなたの物になりたい」という感情がみんなの心に響き届く。裏庭から世界へ、ミクロからマクロへ。表現行為の基本、本質そのものです。

その本質を取り戻し、バンドも打ち込みもストリングスも一緒になってなだれこむ大サビの多幸感。過去を否定するのではなく、失敗も成功も、喜びも悲しみもすべてを引っ括めて自分であるという投げやりでもヤケクソでもない、誠実な希望。現在進行形の空気を感じながら、「先人たちの偉大な探求」をリスペクトして学び作品を作り出していくこと。

軽快で柔和な雰囲気に勘違いしている人が多いと思いますが、ここまで書いてきた通りこの『アイデア』は、いやこれまでの星野源の楽曲には、とてもとても熱い魂が宿っています。今、この時代を生き抜く人間の叫び。その熱量はシルヴェスター・スタローンの「やるかやらないかでやる方を選んだ勇気ある人々の物語」、『ロッキー』シリーズにも通じるほどです。
「人生ってヤツはどんなパンチよりも重い。何度倒されても、立ち上がるんだ」
『ロッキー・ザ・ファイナル』

この先でどんなポップを奏でてくれるのか。個人的には『アイデア』で描いた、陰とその先にある光を突き詰めてくれることを、ケンドリック・ラマー『DAMN.』のような作品を期待しながら、現行日本のキング・オブ・ポップの新作を楽しみにしたいと思います。

聴きこむ編集部ライター 吉田昂平
映画、音楽、サッカーを中心に評論活動修業中。カウンター・カルチャー・マニア。

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