「レディ・バード」とジョン・ブライオンと。

 

 アメリカインディペンデント映画界のミューズ、グレタ・ガーウィグ初監督作品「レディ・バード」を観ました。彼女の故郷であるカリフォルニア州サクラメントを舞台にした、フランソワ・トリュフォーのドワネル・シリーズへの目配せたっぷりに描かれる不器用で愛おしい自伝的青春コメディ。素晴らしかったです。

暖かいピンク(桜色)にカラー・コーディネートされた主人公家族が暮らす労働者階級の地域と、青色を基調にした中流階級の地域の対比など、実に映画的な演出、画作りに唸ってしまいます。

 

スタッフ・ロールに懐かしい名前がありました。音楽を担当したジョン・ブライオン。90年代終わりから00年代にかけて数多くの名プロデュース、映画音楽の名演を残したミュージシャンです。

 

 私が彼の名前を最初に認識したのは2002年、レット・ミラーの2ndソロ・アルバム「The Instigator」にプロデューサーとしてクレジットされていた時でした。その素晴らしくナチュラルなサウンド、必要最小限にしてメロディアスであることをためらわない仕事ぶりに感銘を受けたのです。その数年後にはカニエ・ウェストの「late registration」をプロデュース、カニエに「ジョンとの仕事で人生が変わった」とまで言わしめます。その影響はカニエの最新作にして間違いなく10年代後半を代表するアルバムになるだろう「ye」にもしっかり感じ取ることができます。

 

映画音楽家としてもジョン・ブライオンは多くの作品に携わってきました。現在アメリカ、いや世界最高の映画作家であるポール・トーマス・アンダーソン(以下PTA)の初期作品で実に70年代的な渋い仕事をしていますが、なんと言っても代表作はミシェル・ゴンドリー「エターナル・サンシャイン」でしょう。この透明なSFラブストーリーに、素晴らしくキュートで朗らかなスコアを提供しています。

 

しかしこれ以降、ジョン・ブライオンの名前を目にすることは少なくなってしまいます。00年代後半から10年代にかけて一気に進んだ音楽業界のシステマティックな分業化により、彼のようにじっくりアーティストと一枚のアルバムを作るようなプロデュース・ワークは求められなくなってきたのです。さらにはPTAもジョニー・グリーンウッドという新たな相棒を得てジョンの元を去ります。不遇といえる状況でしたが彼は自身の才能を決して腐らせず、ミランダ・ジュライ「ザ・フューチャー」などの映画音楽やミュージシャンとして演奏活動を続けてきました。

 

そして2017年、「レディ・バード」で見事表舞台に返り咲きました。前述したレット・ミラーやPTA90年代を代表する名盤であるデビュー・アルバムをプロデュースしたルーファス・ウェインライトなどなど、とびきりの原石を丁寧に磨き本来の輝きを無理なく引き出すジョン・ブライオンの存在は、グレタ・ガーウィグにとってとても心強かったことでしょう。

 

「レディ・バード」のスコアは桜色にコーディネートされたサクラメントの映像と素晴らしいハーモニーを奏でます。少ない音数、アコースティック・ギターを基調にした懐かしく優しいサウンド。個性や自分のカラーを押しつけるだけでなく、相手に寄り添い共に喜び悲しむこと、相手の気持ちを知ろうとすること。優れた作品はテーマと作り手たちのメソッドが一致するのです。

 

 

聴きこむ編集部ライター

吉田昂平

 

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